3. フランス発祥説
「なんだ、ながなかと読ませておいて、デマかよ」とお怒りの諸君。こんなことでいちいち目くじらを立てていては、いい老後は送れんぞ。
このようなデマが信じられるほど、マザーグースは歴史が深く、人々から愛されてきたということを、学んでおいてほしい。
さて、話を戻そう。
ナーサリーライムの歌そのものは15世紀ごろから存在している。
だが、これをマザー・グースというカテゴリーでまとめられるようになったのは18世紀になってからじゃ。
先ほど話したが、「マザーグース」本として最初とされているのが「トミーサムのかわいい唄の本」(1744年)。だが、この時はマザーグースという言葉わ使われてない。
初めて「マザーグース」がタイトルに使われたのは1780年、ロンドンの出版者ジョン・ニューベリーの手による「マザーグースのメロディ」である。
しかし、それ以前に「マザーグース」という本が存在しているのじゃ。
1697年、フランスで出版されたシャルル=ペローの童話集「コント・ド・タン・パセ (Histoires ou contes du temps passé :昔の物語)」。
この表紙(口絵)を見てもらいたい。
扉に ”Contes De ma mere Loye” と書かれておる。
正確な表記は ”Les Contes de ma mère l’Oye” (マ・メール・ロアのコント)であり、この本の副題となっている。
「あれ、マ・メール・ロアってバレイの・・」とピンと来た人もいるかもしれんな。
ラヴェル作曲による、ピアノ四手連弾曲並びにバレイ曲であり、眠れぬ森の美女や親指小僧、美女と野獣などを主題にした組曲じゃ。
もちろんペローのこの童話集を題材にして作曲されている。
うん、この本とマザーグースとの関係かね。この副題を英訳すると「The Story of My Mother Goose」となるのじゃ。
事実、この本は1729年、イギリスで” Mother Goose’s Tales” というタイトルで翻訳され、出版されている。
なぜ、この童話が鵞鳥母さんのお話なのか。鵞鳥の「ガアガア」という鳴き声が、気さくで、気のいいおばあさんのイメージだったのだろうと推察される。
この本はロングベストセラーとなり、アメリカでも1794年に出版されている。このころには「童話=マザーグース」というイメージが浸透していたのじゃ。
そこに目を付けたのが、前述の出版者、ジョン・ニューベリー。
童謡集の出版に際して、広く浸透している「マザーグース」をタイトルにつけ、販売促進を試みたというのは想像に難しい事ではない。
実際、この本は大当たりし、後々発売される同様の本にも、同様に「マザーグース」が使われたというわけじゃ。
どうかね。マザーグースはマザーグースとして生まれたのでない。
既に存在した歌を、一人の実業家がマザーグースとして、まとめたのが、数世紀の歳月を経て、今も語り継がれている。
実に、素晴らしい事だと思わんかね。
では、今日はこれで講義を終える。
また、気が向いたら来るからの。楽しみに待って俺よ。 ひゃっ ひゃっ。